「自分の猫を刺繍作品にしてほしい」という要望のように、何かに似せてつくらなきゃいけないときは、かなりの時間をかけて資料集めと下絵描きをします。「ちゃんと似せなきゃ」というプレッシャーもあって、可能であれば本物を見に行くんです。「ああ、毛の流れはこうなってるんだ」とか「目の色は、写真と少し印象が違うんだな」とか、実際に見て初めてわかることもあるので。
縫う作業は、「誰かが喜んでくれるといいなあ……」と考えながら。こういう感情がないと、縫っていてもすごくつまらないんです。個人の方からも企業さんからもお仕事をいただくのですが、いくら頼まれた仕事だからと言っても、「このままだと誰も喜ばないかも」というものは、言われた通りにはあまりつくらないようにしています。先方に確認しながら、色味を変えたりオリジナルの猫を入れたり……自分なりにプラスアルファのアイデアを提案して、自分の気持ちも乗る「誰かが喜んでくれるもの」をつくるようにしています。誰かが笑ってくれて、その人がまた誰かにプレゼントしたいなと思ってもらえるものにしたくて。
「好きなことを仕事にすると、嫌いになる」と聞きますが、私はそうはなりたくない。でも実は、過去に刺繍を嫌いになりかけたこともありました。それは無理のあるお仕事を受けてしまったから。今はやり方を考え直して向き合うようになりました。気持ちが乗らないときは、ちょっとだけ休憩を挟んで気分をリセットさせてから取り組みます。楽しい気分で仕上げたものじゃないと、良いものではない気がするんです。ときには、最初にお仕事をもらったときのことを思い出して、お仕事をいただけることのありがたみを感じながら、楽しんでつくっています。