池田 周平

Shuhei Ikeda

Brewer

東京の片隅の街、八王子市を中心に

注目を集めるクリエイターがいる。

ローカルブランドとして「高尾ビール」を立ち上げ、

自ら手がけるクラフトビールを軸に

独自のコミュニティを拡げる池田周平さんだ。

今回は「高尾ビール」の拠点、

「おんがたブルワリー&ボトルショップ」におじゃまして、

ビールづくりにとどまらない多彩な活動や、

新しい相棒となったEVOⅡの使い方について聞いた。

ウェブディレクターから醸造家への転身

そのきっかけは山だった

数年前までは赤坂のデザイン会社でウェブディレクターとして働いていました。その頃から山が好きで、日本各地、世界各国の山を歩くという生活をしていたんです。2015年……新宿の神楽坂に住んでいた頃、八ヶ岳や北アルプスをよく歩くようになって。その道中、いつも高尾を通ることに気づいたんです。高尾って都心から1時間くらいのところだから、高尾に拠点を移せば1時間遠くの山に行けるし、高尾山にもすぐ登れる。「これはヤバい!」という結論に達して、高尾へ引っ越しました。この時点ではまだ自分がビールをつくるなんてことは思っていませんでしたけどね。

きっかけはあくまでも山が先。でも、以前から山とビールという組みあわせに愛情みたいなものがあったんですよね。山に登って降りてきたらビールが飲みたくなるじゃないですか。ところが高尾の街には酒を飲める店自体が少ない。高尾山は世界有数の登山客を集める山ですが、京王線の高尾山口駅から一気に都心に戻れるので、僕が住んでいるJR高尾駅周辺には人が滞留しないんです。だからファミレスくらいしかない。

「美味いビールが飲みたい!誰かつくってくれないかな……」って思っていましたが誰もつくらないので「自分でやるか」って。それで2016年頃から準備をはじめて、経営や醸造を勉強し、工場をつくり、2017年10月に酒造免許を取得して。そこから高尾ビールとしての活動が本格的にスタートしました。

ウェブ制作と製造業をつなぐ

クリエイティビティとは

ウェブや動画といった、いわゆるスクリーンメディアの仕事に関わる中で、心のどこかに「手元に残るものがない」という想いがあって、それがリアルにものをつくるバリバリの製造業に手を出した動機にはなっているような気がします。一方で「クライアントがつくったものをたくさん売るための仕事」をしていたので、それが今は自分がクライアント側になって「自分でつくったものを自分で売る」という仕事に置き換わった状況。だから、前職での経験は活かされていますね。

日本では「クラフトビール」というカテゴリーの定義が曖昧なので、「これがクラフトビールだ」っていうのは難しいんですけど、高尾ビールでは、「地元の素材を使って、地元に密着して、その場でつくって、その場で飲んでもらう」というローカル性や、大手の資本から離れた独立性を大事にしています。音楽で例えるとインディーズバンドみたいな感じですかね。

ビールは「設計するもの」

醸造家のワークスタイルとは

ビールづくりは仕込みの作業がだいたい3日くらいあって、そこから発酵と温度管理をしつつ、1ヶ月ほどで完成となります。動的な作業は最初の仕込みだけで、後は様子見みたいな感じですね。高尾ビールではだいたい1つのタンクで370リットルくらいを仕込んで、澱などを抜き、商品として仕上がるのが300リットルくらい。これを最終的に生用の樽と、ボトルに詰めていいきます。ボトル換算でだいたい1000本くらいかな。このサイクルを月に3回まわしています。

高尾ビールの主力商品は「森は生きている」と「Oh! Mountain」。「森は生きている」はパッションフルーツやサクランボ、ブルーベリー、ゆずなど、八王子周辺で採れたフルーツを季節ごとに使っています。「Oh! Mountain」は地場産のホップを使いつつ、その名の通り、季節ごとの山の雰囲気をイメージして味を変えているのが特徴です。

バリエーションが多いので複雑そうに思われるかもしれませんが、ビールのレシピは基本的に化学。全て計算式でシミュレーションが可能なんです。実際、ビールの世界ではレシピをつくるときに「設計する」という言い方をします。どのタイミングで何をやればどうなる……ということを組み立てていく感覚は、前職で関わっていたプログラミングやコーディングとも通じる部分はありますね。

筋金入りの山好きから見た

BRAASIの魅力と意外な使い方

本格的な登山では超軽量・ハイスペックなバックパックが主流。そういう視点でバックパックを選んでいた僕にとってEVOⅡは新鮮でした。かなりヘビーでゴテッとした感じで、久しぶりにこういうバックパックを背負ったんですよね。正直、本格的な登山用ではないので重たさを感じるのは当然ですけど、タウンユースで考えると、このウェビングなどは機能としてちょっと面白い使い方もできる。ユーティリティ性がすごく高いなと感じました。

ふと、「樽、入れてみようかな」って思いついて試したら入ったんですよ。樽を入れると高尾ビールのロゴが見えるのもポイント。本体にはボトルで24本も入るんですよ。これで実際に配達や樽の回収にも行っています。生地も強度が高いからラフにも使えるし、20キロ以上の荷物を入れても大丈夫。これを使って生ビールの提供もできるんじゃないか……なんて思ったりもしています。竹籠を入れて山菜摘みに行くのもいいかもなあ(笑)。

イメージしたのは

街と山を行き来するライフスタイル

さっきは「登山には向かない」みたいなことを言いましたけど、高尾山くらいの低山なら全然アリだなと思います。外側のウェビングも、雨上がりに濡れた雨具をガサッと入れたりするのによさそうだなって。

以前、NIKEが「TAKAO」いう名前のスニーカーつくっていて。あれは登山靴とスニーカーの間をいくようなデザインで、すごくいいなと思っていたんですよね。街から山行って、また、街に戻って買いものして……みたいなライフスタイルに最適じゃないですか。BRAASIのバックパックも、それに通じる部分があると感じましたね。

高尾の街とクラフトビールが

つくり出すコミュニティのかたち

最初に「山とビールという組みあわせに愛情みたいなものがある」って言いましたけど、そのベースにはポートランドやオレゴン、ヨセミテの山での体験があります。登山者が集まる麓の街を「トレイルヘッド」って呼ぶんですけど、そこには必ずビールを造って飲ませてくれるブリューパブがあって、山に登る人、山を下りてきた人、地元の住人たちが肩を並べて情報交換をしたりしていました。ああいう場を高尾の街につくりたい……という想いがあっていろいろと活動してきましたが、2019年の9月上旬、ついにJR高尾駅前に地元で人気の飲食店、mihara kitchen & booksさんと共同で、「lantern(ランタン)」というお店をオープンさせることになったんですよ。地場の新鮮な食材を使った美味しい料理と、ビールやお酒が楽しめるお店になる予定です。

それから最近、「たかお」という雑誌の発行をはじめました。最近、高尾に移り住んできたお客さんでアートディレクターやイラストレーターとして活動している人がいて。あるとき2人で、「高尾の街に新しく来た人って、どうやって地域の情報に触れていくんだろう? 自分が住む街だから、どんな人が住んでいて、どんな歴史があるのかもっと知りたいよね」と話し合ったことをきっかけに、地元の人にいろいろと話を聞きに行くようになりました。地元の人たち、特に高齢者の方たちは、街のことを話したがっているんですよ。

昔の地名をもじった古い歌とか、ネットで検索しても一切出てこないような話がいろいろ出てくるのが面白くて。自分の中で溜めているだけだともったいないなって思って、高齢者の方たちにも渡せるかたちを……ということで、紙の雑誌にまとめて発信することにしました。ビールを持って行くと、話を聞かせてもらいやすくなる。ビールにはそういう力があります。クラフトビールをつくりはじめたのは自分が飲みたいからでしたけど、はじめてみたらビールを軸にコミュニティが生まれていった感じですからね。

ウェビングを拡げて生ビール用の樽をイン。池田さんならではのユニークかつ実用的なコーディネートは、BRAASI INDUSTRYのタフさがあってこそ。

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PROFILE

池田周平(Shuhei Ikeda)

ポートランド州立大学(アメリカ オレゴン州 ポートランド)ビジネス オブ クラフトブリューイング科修了。ホイポロイ ブルワリー(アメリカ カリフォルニア州 バークレー)醸造プログラム修了。

デザイン・広告企業での勤務を経て高尾ビール株式会社を設立。自社商品の開発・ブランディング・販売を自ら手がける傍ら、国内ビールメーカーのクラフトビール商品のブランド戦略やプロモーション企画、海外時計ブランドのEコマース参入支援・運営といった領域でも活動している。

高尾ビールオフィシャルサイト:http://www.takaobeer.com/

Twitter:https://twitter.com/takaobeerco

おんがたブルワリー&ボトルショップ:

東京都八王子市下恩方町 1557

営業時間/金曜日・土曜日の正午〜日没

※醸造・イベント等のための不定休あり

Lantern(ランタン):

東京都八王子市高尾町1200-1-2階

JR中央線/京王線 高尾駅から徒歩(北口改札から10秒)