川田 十夢

Tomu Kawada

AR三兄弟“長男”・通りすがりの天才

AR(拡張現実)のテクノロジーと視点を武器に、
さまざまなものを拡張し続ける開発ユニット『AR三兄弟』。
その“長男”であり、 J-WAVEの人気ラジオDJであり、
デザイナーであり、演出家であり、パフォーマーであり……

彼を語る言葉は無数にある。
しかし、彼の本質を捉えきれる言葉は一向に見つからない。

自らを「通りすがりの天才」と名乗る川田十夢さんに、
最近の発明や興味、ファッションやBRAASIへの印象、
さらにはバックパックを拡張する
ユニークなアイデアなどを語っていただいた。

依頼が来てからつくるのではなく

先につくって世に出していく

通りすがりの天才。公私ともに長男(※1)。代表作は「痛いの痛いのポンデケージョ(※2)」。いつもはAR三兄弟という開発ユニットで長男としていろいろな発明をしています。

最近、発明したのは「空中にフラグを置く」という技術。ETCなんかだと、車が通って、カードに赤外線が反応してゲートが開きますけど、そういう関係性はもういらないんですよ。「誰が、どこを、どの高さで進んだか」という情報に対して、今みんなが持っているもの(スマホなど)でフラグを置くことが可能なんです。この仕組みを使って決済などができる……という発明で特許を取りました。やがてみんなが使うことになると思いますよ。

依頼が来てから何かをつくるというわけではなくて、自主的にアイデアをかたちにしたものを世に出して、「いいですね!ナイスですね!」って言ってくれる人たちから声がかかって、それがときにはミュージックビデオになることもあるし、パリコレクションになることもある……という感じ。取得した特許も増えてきました。

例えば、「絵画の画面からからモナリザが飛び出してくる」っていうネタをつくったんですけど、それを見た文化庁の人たちから、「じゃあ浮世絵から飛び出すやつつくりましょう」みたいに、飛び出すシリーズが生まれていって。今度ね、「テレビから餅が飛び出してくる」というのをやりますよ。

※1 公私ともに長男:「公」はAR三兄弟の長男。「私」は川田家の長男。結成初期から自己紹介に使用してきたフレーズ。
※2 痛いの痛いのポンデケージョ:川田さんがラジオやSNSなどで気まぐれに発表している「パンギャグ」シリーズ作品のひとつ。このほかに「なんのピロシキ(これしき)!」「ほらフォカッチャ(いわんこっちゃ)ない」などがある。

ひとくくりにできないから

「通りすがりの天才」って名乗ってる

発明や開発もしてるし、ラジオもやってるし、ロゴもデザインしてるし……例えば、『ノイタミナ(※3)』のロゴをつくったのも僕。挙げたらきりがない。だから「通りすがりの天才」って名乗ってる。そもそも僕は「なにしてる人かわからない人」になりたかったから。そういう意味ではなれていると思います。

因みに「通りすがりの天才」にもドップラー効果があって。救急車は、「ピーポーピーポーピーポー……」ってだんだん音が小さくなるでしょ? はじめて会ったときは「なんだか抜けのいい明るい人だったな」くらいの印象で終わるんだけど、翌々日くらいに、「あっ、あの人本当に天才だったんじゃないか」って気づく感じ。

最初に話した「痛いの痛いのポンデケージョ」、全然面白くないって思ったでしょ? でも、後々パン屋に行ってポンデケージョを見たとき思い出すわけですよ。ポンデケージョの丸さがおもしろく見えてくる。「なんでこんなにモチモチなの?」って。

※3 ノイタミナ:2009年から放送がはじまったフジテレビほか同系列地上波一部局で放送されている深夜アニメ枠。川田さんはその中の作品『東のエデン』に関わったことを機に、2014年にロゴの刷新を手がけている。このロゴもARを使用した演出が組み込まれ、話題となった。

自分が本当に聞きたいことだけを聞く

「会話の窓」としてのラジオ

ラジオ(※4)は1つの窓みたいに機能していて。自分が受け手として音楽とか文章とか作品に触れてきた人たちと直接向き合って、会話をしてみる場になっています。もうラジオDJを4、5年やってて、毎週新しい人に会う。Corneliusさんとか、佐野元春さんとか、Mr.マリックさんとか……その中でなんとなくわかってきたのは、上手なDJはリスナーが聞きたいことを聞けばいいんだけど、僕は別にそれをしなくていいということ。「当事者の感覚に直接問い合わせたいことしか聞かない」って決めてやってます。

例えば、脳科学者の茂木健一郎さんと会ったときは、国語の教科書に載っていた茂木さんの未練をテーマにした文章について聞きました。「みんな成功したいでしょ? テストでもいい点とりたいでしょ? でも本当に大事なのは未練なんだよ。ああ、あのときこうしておけばよかった……という積み重ねが、人の毎日を美しくするし、その積み重ねが人類を進化させてきたんだよ」みたいな、いい文章を書いていて。

で、「その文章を教科書に載せて茂木さんはどのくらい儲かったんですか?」って質問してみたんです。そうしたら「数値化できない」って、あの人らしく答えてくれて。実際、掲載自体は無料に等しいらしいんですよ。ただ、「教科書に載ってる人の本だ」ってことで親御さんが買いやすくなるから、そういう相乗効果はあるだろうと。

普通、茂木さんの言葉はまだ国語の教科書にしか載らないんですよ。でも、その国語の授業ではタブーとされている「この文章を掲載されていることでいくら儲かったんですか?」という問題は数学なんですよね。教育もエンターテインメントも、何か教科とか時間割を超える手段があった方がいいと思っていて。だから僕も、そういうものを日々つくってるんですけどね。

※4 ラジオ:J-WAVEで放送中の人気番組『INNOVATION WORLD』にて金曜日のパーソナリティーを担当中。

「人の柄」と書いて「人柄」

生活や人柄が透けて見えるデザインに惹かれた

BRAASIって「ブラァシィ」って読むんですね。楳図かずおの「グワシ」みたい。最初に目にしたのは、友だちがSNSに上げていたネギをウェビングに入れて背負ってる写真。デザインがかっこいいし、生活が透けて見えている感じが気になってて。荷物のディスプレイができるのがいいですよね。季節のフルーツを入れたりしてもおもしろいかも。ここ(ウェビング)に、自分の中で一番流行ってるものとか、今聴いているレコードのジャケットとか、アイデンティティを示すものを入れるっていうのはいいでしょうね。

最近、僕の興味は「人柄」なんです。「人」の「柄」と書いて「人柄」。その人が何をどのように見て、その人の仕事にどう活かしているのかとか、その人の言動につながっているのかということにすごく興味があって。ここに何を入れるかで、生活とか人柄が見えてくるデザインはおもしろい。僕の場合はAR三兄弟のトレードマークになっているカクメット(※5)を入れたりしてますね。インナーの黄色と合っている感じも気に入っています。

多面的なところもいい。以前、「スマホで空間をポリゴン化する」っていう技術を開発したんですけど。普通にスマホのカメラで撮った風景を3DCGにできちゃう。空間の中に点を配置していって、その点を結んで線を引いていくと、1つのエレメントが三角形の面になって、その連なりがポリゴンって呼ばれるCGの元になるんですけど、(ウェビングが)それっぽいなと思って。カクメットもそうだよね。多面的でシンプルなものが好き。

※5 カクメット:AR三兄弟のトレードマークになっている多面体型のヘルメット。株式会社イエローがデザインした製品で、普通に購入も可能。一見すると奇抜だが、重ねて収納するために生まれた機能性の高いデザインが特徴。

ノイローゼ気味に色を決めて

ノイローゼ気味にコーディネートする

特に裏地の黄色が気に入ってます。黄色にもいろいろあるけど、ヨーロッパの人は鮮やかな黄色を使うよね。日本人はくすんだ色を使いがちだけど、こうゆう鮮やかな裏地って凄くいい。

今日のコーディネートは、このカクメットとバックパックのインナーと、キャップのつばを黄色で合わせてて。それに赤と黒も加えてちょっとドイツの国旗風に。もう、ノイローゼみたいにその日のキーカラーを決めて、胸ポケットに色違いの3本のペンをさすんです。本当にノイローゼだと思うんですけど、ベースカラーはこのペンの3色しか使ってない。

実際、使ってみても便利で。ポケットがふたつあるし、パソコンは常に持ち歩くからスリーブがあって、もこもこするところ(保護材)がちゃんとあることも大事。あと、バックパックって前に抱えて使うときがあるでしょ。そういうとき、すごく便利なんですよ。

科学者の視点、建築家の視点、文豪の視点……

視点をつないだ先に残したいものがある

今、絵本作家のかこさとしさんの『科学者の目』という本を読んでいて。いろんな科学者の目を通して世界を見るっていうのを書いている本なんですけど。例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチなら、最高の画家で科学者でもあった人の視点で、視覚野から入ってくる情報をどのように整えて発明につなげたのかという話を書いてたりとか、すごくおもしろい。そういう意味で、建築家が世界を捉えた視点を線でつないでいった先で、バックパックというアウトプットになったというプロセスを想像するのが、本当におもしろいし興味深い。

「視点をつなぐ」という意味で、僕がつくっているものの中でこれに近いのは『文豪カメラ』。これは、スマホで撮った雑多な写真を、文豪たちの文体で文章にする発明。芥川龍之介とか、夏目漱石とか、江戸川乱歩とか、文豪たちが書いた作品を人工知能に学習させて、写真にそれぞれ何が写りこんでいるかを文字変換して人工知能が文章化する……というもの。文豪たちはもうこの世にはいない。でも、もしも生きていたら、現代のスクランブル交差点を見て何か文章を書いたはずなんです。

そんな風に、誰かの視点がつながって、時代や職業の壁も超えて、その誰かの感覚や経験から生まれるアウトプットを想像できる状態を「拡張子」で残したい。「.MP3」は音源だけど、「.AR3」、つまり僕らAR三兄弟は「拡張現実の子」だから。

自身が“長男”をつとめる開発ユニット『AR三兄弟』のトレードマークであるカクメットを収納。多面体のボディと『Wicker』のウェビングの組み合わせがユニーク。

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PROFILE

川田十夢(Tomu Kawada)

1976年熊本県生まれ。開発ユニット『AR三兄弟』を率いる発明家であり開発者。J-WAVE『INNOVATION WORLD』のDJも担当する。1999年にメーカーの系列会社に就職。2009年から『AR三兄弟』の活動をスタートさせ、AR(拡張現実)を用いた作品を次々と発表。その後も、ミュージックビデオ、ファッションショー、演劇、コントなど幅広い領域を拡張し続けている。

オフィシャルサイト:http://ar3.jp/
Twitterアカウント:https://twitter.com/cmrr_xxx